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技能実習制度「廃止論」の背景

202211月に政府は技能実習・特定技能制度改革の有識者会議を設置し、20234月には中間報告を発表し、技能実習制度「廃止」を国内各メディアが一斉に報道しました。

この一連の動きはアメリカ側の「技能実習制度は現代の奴隷制度である」という非難への対応と理解され、たしかにそういった側面も有していることは間違いないと思われます。

一方で法律的な枠組みとして、日本国内においてもいずれは技能実習制度を変えないといけないという内的な要因も有していました。今回はこの小論で、国内の法的な事情がどのようなものであったのか、その概略をご説明いたします。

バブル期には潤沢な投資に基づき建設業界は多忙を極め、人材不足に悩まされていました。そんな中で現場を支えていたのは、今と同じで、外国人でした。彼らの多くは不法就労者であったと言われていますが、当時は入管当局も彼らを黙認していたようです。しかし、不法就労では会社・労働者に、問題が発生した場合、その問題解決を当事者同士で行わざるをえず、労働者に一方的に不利な「解決」が多かったようです。

そういった状況で彼らの合法的な就労を認める必要性が生じ、その流れが現在の技能実習制度です。

外国人労働者の単純労働を認める場合のやり方として、当時の日本政府が参考にしたのが、先に経済成長を経験したEUでした。EUではすでに1960年代から少子高齢化による労働者不足に対応するため、移民(不法移民)に依存する状況でしたが、移民の受け入れは文化的、経済的に多くの社会問題の要因になることはEU諸国が明らかにしていました。

日本が移民問題を回避するために作った枠組みが次のようなものです。

単純労働者は「実習」のために来日し、「実習」等が終われば、帰国して母国で習得した技能・知識を活用してもらう、このような実習制度として単純労働者の在留を一時的に認める。

いわゆる技能実習法にはその目的として以下のように定義されています(下線は筆者)。

    外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律

(目的)
   第一条   この法律は、技能実習に関し、基本理念を定め、国等の責務を    明らかにするとともに、技能実習計画の認定及び監理団体の許可の制度を設けること等により、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。次条及び第四十八条第一項において「入管法」という。)その他の出入国に関する法令及び労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)その他の労働に関する法令と相まって、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進することを目的とする。

    このような制度を採用することにより、移民問題を回避したのです。

    また、ここで重要なのは法律上、国内の人材不足に対応するという(本当の)理由・目的は一切表面化しないことです。あくまで、日本の技能等を開発途上国の外国人に勉強してもらい、人材育成を通じて、国際貢献をする、こういった建前の目的のみが認められています。

技能実習制度が時を重ね、色々な業界に浸透していくと、企業側からせっかく仕事を覚えた外国人労働者を帰国させるのは企業の損失であるとの主張が高まり、ついに政府は2019年に入管法を改正し、在留資格「特定技能」が誕生しました。

「特定技能」が法的に画期的と言えるのが、国内の人材不足、人材不足に対応するため、外国人労働者に働いてもらう、このような技能実習制度では隠されていた動機・理由・目的が法律上、正面から認められたことです。

労働者不足に対応するために外国人の在留を認めるという建付けは移民の建付けととても似ています。

技能実習や特定技能に関わっている方ならお分かりだと思いますが、特定技能制度は目的が全く違う技能実習制度とリンクしています。しかし、現実上の機能(人材不足への対応)は同一ですが、それぞれの制度の目的いわばゴール地点は異なるので、制度上の不備が色々なところで表出していまいた。

このように国内においても、技能実習制度は本音と建前が分離していることにより、矛盾があり、特定技能とのリンクがすっきりしないという問題がありました。

今回、技能実習制度は名称を「育成技能」に改め、人材育成という観点から特定技能とのスムーズな関連を有するようです。まだ、法律は完成していませんが、新制度では人材育成を通じた国際貢献がその目的とされることはあっても、それだけが目的とはされないでしょう。

特定技能制度がそもそも試験を前提に1号・2号というキャリアアップが設計されており、外国人のキャリアパスという観点に馴染みやすいものです。

基本的に「技能実習」と「育成技能」はそれほど異なる制度ではありませんが、キャリアパスという観点から新制度を把握すれば理解の一助となると考えています。

この記事の担当者:行政書士 金子英隆

現在行政書士として活動しています。管理団体・登録支援機関の申請、建設特定技能計画、ビザ・在留資格などの申請を行っています。特技は三味線です。
これから外国人の制度について発信していきます。

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